2011佐渡ロングライド210

■心の通い合いこそが ロングライドの魅力

海岸線のトレイン
▲両津BS先の海岸線を行く20人もの大トレイン。こんな集団がアメーバのように集まったり分かれたりしながら走り続けていく

多田ASに11時05分着。
ボトルにスポーツドリンクをもらい、10分で出る。ここからはいいペースのトレインをつかまえられた。スタート直後のペースには及ばないが、ブラジルのナショナルジャージを着た外人さんを中心に、かなりの速度だ。死にものぐるいで食らいついていく。8時間切りがかかっているのだ。

その5人くらいのトレインで走っているとき、あれっ、と思った。先頭の人が踏むのをやめて、後ろに下がってきている。そしてしばらく走ると次の人も。これは……先頭交代だ!

エイドステーション
▲エイドステーションにはバナナ、オレンジ、おにぎりなどがズラリ。水分もスポーツドリンクと水が用意される

ほかのイベントも含め、これまでロングライドで混ぜてもらっていたトレインは、速い人に遅い人がついて行く、というだけのもので、先頭交代はしていなかった(気づかなかっただけかもしれないが)。引いている人が疲れてペースが落ちたら、後ろの人が追い抜いていく。そんな感じだったのだ。だが、ここでは明確なローテーションが行なわれている! しかもこれがけっして強制ではない感じだ。

前から降りてきたライダーが、横を見ながらオレに「引くか?」という感じで合図してくる。そこで引く意思を見せて前の人について行くと、そのライダーはオレの後ろの人に同じように合図を送ったらしい。すると後ろの人は「すいません引けません」と叫ぶ。するとその人の前にスッとローテーションのライダーが入ったのだ。

エイドステーション
▲エイドステーションで長居をしてしまうと、目標達成どころか完走も危うい。10分くらいでササッとスタートしたい

引ける人は引いてくれ。引けない人は無理しなくてもいいからついてこい、いっしょに行こう。そんな無言の意思がここにはある。すごい。走る位置が違うと、走り方もこんなに違うんだ。これまで知らなかったレベルの走りがここにある。

参りました
▲多田ASから小木ASの間でランデブーした川窪伸光さん(左)。52歳とうかがいましたが、オレより全然強い! 参りました

ロングライドイベントの最大の魅力は、コース途中でたまたま出会った見知らぬ者同士がトレインを組み、一致協力してゴールを目指す「一体感」だと思う。強い者が前を引き、弱い者は必死ですがりつく。声には出さないが、みんな心の中でちぎれそうになったライダーをガンバレ!と応援している。ついてこい!と叫んでいる。そしてその頑張りから、自分も力をもらっている。みんなでゴールを目指そう! その心の通い合いこそがロングライドイベントのすばらしさなのだ。

これまでもいろいろなイベントでそう感じてきたが、今回このトレインで走ったことで、さらにレベルの高い「一体感」を感じることができたような気がする。

15%坂
▲佐渡ロングライド名物「15%坂」! 距離はそれほどでもないが、とにかく急な勾配が連続する。蛇行しながらなんとかクリアする

■ここで止まったら自分自身に誇れない

12時05分、小木AS着。
ここまで162km。残り約50km。ということは9時間切りなら残り2時間40分。だが8時間切りだと残り1時間40分。無理……かな。

10分で小木ASを出る。ここから素浜ASまでの間には、棚田の間を縫って上る、最大勾配15%の急坂がある。名付けて「15%坂」。佐渡の最大の難所は、Z坂でも大野亀坂でもなく、じつはこの15%坂だ。一昨年はここで足を着いてしまい、悔いを残した。今年は絶対に足を着かずに上る。その坂は急に現われる。

来た! ここが15%坂だ! ギヤはいきなりフロントインナーに。リヤもどんどん落ちる。息が荒くなる。そしてついに秘密兵器を出すときが来た! このときのために用意したスーパーローギヤ、34×28Tだ!

初めてのトレイン先頭
▲小木ASまでトレインを組んでくれた人たち(一部)。このトレインで岩田は初めて先頭交代を経験しました
おにぎりステーション
▲素浜坂の先で手製「おにぎりステーション」発見!「主人が通るのを待つ間、やってました。来年もいるのでどうぞ」

「いでよサンヨン・ニッパチ!!」

トルクをかけたままの乱暴な変速で、ギヤがガキン!と大きな音を立てる。

秘密兵器のおかげでなんとか15%坂を乗り切り、最後の素浜ASに13時05分着。残り30km。8時間切りまであと……40分。無理だ。しかもここからは素浜坂と国道坂という大きな坂が2つ待ち構えている。

ちくしょう、ダメか……。

タイヤを担いでゴール
▲ホイールを背負ってゴールし、観客のど肝を抜いた上阪伸夫さん。スペアホイールを用意して210kmを走ったのか!?

でも最後まで全力で走りたい。素浜ASを10分で出る。ここからは完全に一人旅だ。2つの坂をこなし、道は佐和田の町に入っていく。ラストスパートだ。

右から130kmコースの参加者たちが合流してくる。明らかにスピードが遅い。MTBやクロスバイクも多い。どんどん抜いていく。210kmコースの参加者として、恥ずかしい走りは見せられない。すごいな、自分も次回は210kmにチャレンジしてみたいな、そう思ってもらえるような走りを見せたい。

そして川を渡るとすぐにゴールだ。オレのゴールシーンを撮ろうと待っているはずのカメラマンに電話しようか迷ったが、かまわずそのまま突っ走る。ここで止まってはいけない気がした。全力を出し切らなければいけない気がしたのだ。なぜだかわからない。でも力一杯走りきったそのタイムでなければ、誇れない気がする。……自分自身に。

ゴールのゲートが見えてきた。その向こう、コースの真ん中に山内カメラマンが構えている。DJタネさんの「おかえりなさーい!」のコールのなか、両手を挙げてゴールした。すぐに時計を見る。8時間33分。よし、いいだろう。精一杯走った。これが今の自分の力だ。たいして速くないかもしれない。でも、このタイムはオレだけの誇り、勲章だ。

ゴーーーール!
▲「9時間切り」達成の瞬間。ロングライドはレースではなく自分との闘いだ。何より安全に、事故なく帰ってこられたことに感謝!

自転車を送る手続きをすませて、16時ころゴールに陣取る。続々と210kmの参加者たちがゴールしてくる。みんなうれしさでいっぱいの顔、満足感があふれる笑顔を見せてくれる。

初のロングライドでの完走、仲間といっしょの完走、昨年の自分を超えての完走……。それぞれの目標と、それを達成した喜びが爆発する瞬間だ。思わず拍手してしまう。

そんな参加者たちのゴールを見ていると、自転車に乗っていて本当によかったと思う。「おかえりなさーい!」タネさんの声が夕暮れの佐渡に響く。そして今年の佐渡ロングライドが終わっていく。

■プロフィールマップ&岩田の区間データ

キャットアイ・V3のラップ計測機能を使って、各区間ごとのデータをとってみた。
やはりZ坂、大野亀坂のある入崎AS~はじき野AS間、素浜坂、国道坂のある素浜AS~ゴール間は平均速度が落ちている。最大心拍はスタート後の高速走行中と、15%坂で記録!

区間データグラフ

岩田のメーター
平均速度(走行中)27.5km/h
平均心拍153bpm
平均ケイデンス73rpm
走行距離205.77km
全走行時間は7時間28分04秒
岩田のメーター